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岡山地方裁判所 平成7年(ワ)648号 判決 1997年8月25日

原告

山本久美子

被告

高田克巳

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金二七三三万五九二三円及び内金二五三三万五九二三円に対する平成三年一一月八日から、内金二〇〇万円に対する平成七年七月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

日時 平成三年一一月七日午前七時二五分ころ

場所 岡山県倉敷市児島赤崎四丁目一五番一四号先道路

加害車両 普通乗用自動車(岡五七ふ八七一八)

右運転者 被告

被害車両 普通乗用自動車(岡山五九む二八〇二)

右運転者 小出勇

右同乗者 原告(助手席)

態様 加害車両と被害車両が正面衝突

2  責任

被告は、本件事故について自賠法三条及び民法七〇九条の責任を負う。

3  権利侵害

原告は、本件事故により外傷性頸椎々間板ヘルニアの傷害を負い、頭痛、両上肢痛及び指しびれ感の症状を来たし、児島中央病院に平成三年一一月七日から平成五年九月一日まで入通院し(入院期間は平成三年一二月四日から平成四年一月二二日までの五〇日間、通院実日数は四九八日間)、藤本治療所に同年三月四日から平成五年八月三〇日まで通院し(実日数二五七日)、岡山柔道整体治療院に平成四年七月一六日から平成五年八月三一日まで通院し(実日数一三三日)、同年九月一日症状固定し、神経症状の後遺障害が残り、自賠責より後遺障害等級一四級一〇号の事前認定を受けた。右入通院のため、勤務先の株式会社岡山高島屋を平成三年一一月七日から平成五年九月二九日まで欠勤し、年次有給休暇等の休暇の使用や休職等を余儀なくされ、同月三〇日復職したが、職場において右欠勤等により種々の不利益を受けた。

4  損害額

<1> 治療費等 三八七万一〇〇〇円

a 児島中央病院分 二七二万二九〇〇円

b 藤本治療所分 七九万七〇〇〇円

c 岡山柔道整体治療院分 三四万六五〇〇円

d 診断書料 四六〇〇円

<2> 通院交通費(タクシー代・JR運賃) 一四八万七七六〇円

<3> 入院雑費 七万円

<4> 文書代 二万〇九一〇円

<5> 装具代(首のコルセット代) 九一六二円

<6> 休業損害 一二五六万六五〇二円

原告の平成三年度給与所得四三九万七二九一円を実労働日数二三二で除して得た日給一万八九五四円に、本件事故の日である平成三年一一月七日から復職の日である平成五年九月三〇日までの間のうち休業日数六六三を乗じて得た額

<7> 入通院慰謝料 二五〇万円

<8> 逸失利益 一二二二万二一〇〇円

a 労働能力喪失分 六五万九五九三円

前記<6>の四三九万七二九一円に後遺障害等級一四級の労働能力喪失率として〇・〇五を乗じ、労働能力喪失期間年数三を乗じて得た額

b 年次有給休暇喪失分 三八二万八七〇八円

本件事故による入通院治療のため使用した年次有給休暇日数一六二と右事故により喪失した平成五年、六年分の年次有給休暇日数二〇宛の合計二〇二日分

c 平成五年九月(復職月)分給与の欠勤減額分 二万三三五五円

d リフレッシュ休暇消化による平成六年六月給与減額分 六八四五円

e 職務能力給の喪失分 二〇〇万二九〇〇円

職務能力給の順次増額見込金の喪失分(平成四年四月から定年退職の平成二六年八月まで)の合計額

f 職務資格給の喪失分 一二万二五〇〇円

職務資格給の毎年順次増額見込金の喪失分(平成四年四月から平成五年九月まで)の合計額

g 年齢給の喪失分 六八万六〇〇〇円

年齢給の毎年順次増額見込金の喪失分(平成四年四月から定年退職の平成二六年八月まで)の合計額

h 年末手当(平成五年度)の減額分一三万五一五七円

i 賞与の減額分 三六九万六〇七〇円

平成三年下期から定年退職直前の平成二六年上期までの賞与における減額分の合計額

j 厚生年金支給額の喪失分 六万〇九〇〇円

給与の減額に伴う年金掛金の基礎となる標準報酬月額の減少による将来の年金支給額の喪失推測額

k 退職金の差額分 一〇〇万円

原告の休業期間中の勤続年数不算入にまる退職金減額推定額

<9> 後遺症慰謝料 五〇万円

5  損害の填補 七九一万一四三九円

6  弁護士費用 二〇〇万円

7  結論

よって、原告は、被告に対し、損害金等二七三三万五九二三円及びそのうち弁護士費用を除く金二五三三万五九二三円に対する本件交通事故の翌日である平成三年一一月八日から、残金二〇〇万円(弁護士費用)に対する訴状送達の翌日である平成七年七月九日からそれぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2は認める。

請求原因3のうち、原告が児島中央病院に平成三年一二月四日から平成四年一月二二日までの五〇日間入院したことは認めるが、その余は争う。本件事故と原告の傷病及び入通院との因果関係はない。原告の入通院は不必要な濃厚治療であり、原告は欠勤等の必要もなかった。

請求原因4、6は争う。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故については、原告が同乗していた被害車両の進行方向左側にも八〇センチメートル以上の余裕があり、同車運転の小出勇にもブレーキ操作、ハンドル操作上の落度があったものというべきであるから、右の点は被害者側の過失として過失相殺をすべきである。また、小出勇は原告の甥であり、右事故当時原告を駅に送る途中であったから、原告は好意同乗者であり、損害額の減額をすべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  交通事故

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

1  経緯

請求原因3のうち、原告が児島中央病院に平成三年一二月四日から平成四年一月二二日までの五〇日間入院したことは、当事者間に争いがない。

甲第一ないし第二四号証、乙第一ないし第一四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告(昭和二九年八月一〇日生)は、平成三年一一月七日本件事故に遭遇し(当時三七歳)、同日児島中央病院に赴いたが、頸椎X線の撮影によるも異常は認められなかった。同病院における翌八日の二回目の診察では、スパーリングテスト左側にわずかプラス、ワルテンベルグ・ホフマン反射マイナス、四肢腱反射上肢両側やや亢進、下肢正常、四肢徒手筋力テスト正常の所見が存し、頸椎捻挫(約五日間の加療を要する見込み)との診断がなされた。同月二一日の三度目の診察では、左上肢のしびれ感、左側大後頭神経、腕神経叢の圧痛、左側肩・肩胛帯の運動痛等の主訴が存し、前回所見に比べ、上肢の腱反射が両側やや亢進しているのが認められた。同月二七日の診察でも前回の主訴が頑固に続いており、頸椎MRI検査が行われたが、その所見により椎間板ヘルニアなし、脊柱管狭窄なしとされた。同年一二月三日の診察ではこれまでの主訴に両上肢の脱力感の訴えが加わり、原告の希望により同日入院が許可され、同月四日入院した。

入院後まもない平成三年一二月五日の所見では、左後頭部より上肢にかけての痛み、頸部の運動は完全かつ円滑、軽い痛みを伴う、ジャクソンテストは左右わずかの痛み、スパーリングテストは左側のみわずかの痛み、ワルテンベルグ・ホフマン反射は陰性、握力は二四キログラムで左右差なし、知覚は正常、四肢腱反射は上肢やや亢進、四肢筋力は正常であった。その後、ワルテンベルグ・ホフマン反射が一度疑陽性になったことがあるほかは、知覚、運動、反射は正常であった。原告は、平成四年の正月には三泊の外泊をし、同年一月四日には装着していた頸椎カラーを取り外したが、同病院側からの退院の話に対しては、まだまだ仕事ができない、心の準備ができないなどと述べて、入院のしばらくの延長を希望した。しかし、同月一三日担当医が通院加療の方が好ましいとして退院を勧告したことから、同月二二日退院となった。

右退院後、原告は児島中央病院に平成四年一月二三日から平成五年九月一日まで通院して治療を受けた(実治療日数四八六日)。この間、同様の理学療法が繰り返され、同じ鎮痛剤、筋弛緩剤、精神安定剤の投与、湿布等(平成五年になってからは鎮痛剤の投与、湿布のみ)が行われ、医師による診察の頻度も月に一、二回程度になっていった。診察所見では特段の他覚所見はなかったが、主訴は、頭痛、左項部痛、頭を含め左半身の痛み、左鎖骨痛、右母趾痛、多発性関節痛(両肩、両肘、両手、両股、両膝、両足)、指先のチカチカ、腰痛等多種多様なものとなっていった。平成四年八月一九日には再度の頸椎MRI検査が行われ、C4/5、5/6、6/7に中心性椎間板ヘルニアありとの報告がなされた。

児島中央病院における平成五年一月二七日の診察では、頸部痛、多関節痛、知覚は正常、握力左右差なし、仕事をする自信がないとの訴えありとの所見があり、同年二月一九日の診察所見では、本件事故の損害賠償の調停が同年三月四日に予定されているとの申告とともに、後頭部痛、頸部痛、握力右二六キログラム、左一四キログラム、知覚は正常、ワルテンベルグ・ホフマン反射は両側陽性、手根管症候群の勺Phalen test左側陽性の所見が存し、無意識に持っている物を落とすことがある、歩行では膝が崩れ、階段昇降の際ひっかかることがある、てすりは時に必要、排尿回数増加等の主訴があった。担当医は、右所見が日本整形外科学会頸椎症性脊髄症治療成績判定基準の一七点中一三点に相当するとし、同年二月一九日付で外傷性頸椎椎間板ヘルニアの傷病名を追加した。同年三月二二日の診察では、頸部痛持続、歩行は階段も普通、物を落とすこと時にあり、頻尿ありとの訴えがなされ、他覚的には、頸椎の運動は完全、頸部の圧痛マイナス、スパーリング等の神経根刺激テストマイナス、握力は右二一キログラム、左一九キログラム、知覚は正常、腱反射正常、ホフマン・ワルテンベルグは左側のみプラスの所見があった。その後も同様の所見が続き、同年七月一四日の所見では、ホフマン・ワルテンベルグは一時両側マイナスとなっている。同年八月二〇日の診察所見では、同年三月二二日と同様のものに、左前腕のしびれ、右二ないし四指のしびれ感の症状が加わった。

以上の治療経過の後、原告は、児島中央病院において平成五年九月一日症状固定の診断を受け(当時三九歳)、傷病名として「外傷性頸椎椎間板ヘルニア」、自覚症状として「頭痛、両上肢痛、両二ないし四指しびれ感」、他覚症状及び検査結果等として「左上腕二頭筋、左腕橈骨筋腱反射軽度亢進、左ワルテンベルグ・ホフマン反射陽性、左手掌知覚鈍麻、筋萎縮マイナス、握力右一八キログラム、左一〇キログラム、MRIC4/5、5/6、6/7にて硬膜前方よりの軽度圧迫所見有り」との記載のある後遺障害診断書を徴した。

原告は、右のとおり児島中央病院で治療を受ける傍ら、藤本治療所に同年三月四日から平成五年八月三〇日まで通院し(実日数二五七日)、岡山柔道整体治療院に平成四年七月一六日から平成五年八月三一日まで通院し(実日数一三三日)、マッサージ治療や変形徒手矯正術等を受けるなどした。また、平成五年五月一四日国立岡山病院整形外科で診察を受け、病名として「頸椎捻挫、腰部捻挫」とし、附記として「現在頸痛、後頭部痛、左上肢痛、左手の知覚障害があり、頸部椎間板ヘルニアの症状を呈しているが、牽引温熱療法などの保存的治療を継続することが望ましい」とする診断書を徴した。

原告は、前記児島中央病院の後遺障害診断書により、平成五年九月一七日自賠責から後遺障害等級一四級一〇号の事前認定を受けた。

原告は、株式会社岡山高島屋に昭和四八年三月九日以降従業員として勤務してきたものであるが、本件事故当日である平成三年一一月七日から欠勤し、平成五年一月一六日から休職扱いとなり、同年九月二九日まで休職し、同月三〇日復職した。右欠勤、休職等により、原告は右会社から通常なら付与される筈の年次有給休暇(年間二〇日)の二年(平成五年及び六年)分の付与を受けられなくなり、給与の一部である職務能力給、職務資格給、年令給の順次増額見込金が受けられないこととなったほか、休職期間は勤続年数に算入されないことや休職等による標準報酬月額の減少等の影響により将来の賞与、退職金、厚生年金の各支給額に些かの減額が見込まれている。

以上のとおり認められる。

2  受傷

原告は、本件事故により外傷性頸椎椎間板ヘルニアの傷害を負った旨主張し、被告は右因果関係を争う。

本件事故直後の原告の頸椎X線写真には異常は認められず、当初の診断は加療約五日間の頸椎捻挫であり、平成三年一一月二七日の頸椎MRI検査にも椎間板ヘルニアなし、脊柱管狭窄なしとの結果が報告されていたのが、その後通院中の平成四年八月一九日の再度の頸椎MRI検査によりC4/5、5/6、6/7に中心性椎間板ヘルニアありとの報告がなされ、外傷性頸椎椎間板ヘルニアの傷病名が付されたのは平成五年二月一九日であったことは、前記1認定のとおりであるが、何故最初のMRI検査で発見されなかった頸椎椎間板ヘルニアが再度のMRI検査で発見されたのか、その理由は証拠上明らかではなく、また、何故右頸椎椎間板ヘルニアが外傷性であると判定されたのか、その理由は証拠上必ずしも明らかではない(乙第一四号証によれば、この種の頸椎椎間板ヘルニアは経年による退行変性によっても発現する可能性があることが認められる)ことなどからすると、被告が争うように、外傷性頸椎椎間板ヘルニアの傷病名に疑問の余地がないとはいえない。

しかし、二度にわたるMRI検査を前提に考えられる可能性としては、<1>最初の検査後に本件事故とは別の原因でヘルニアが生じた、<2>右事故前から退行変性性のヘルニアが存していたが、検査で見逃すほどに軽度なものであった、<3>右事故により外傷性のヘルニアが生じたが、検査で見逃すほどに軽度なものであった、<4>右事故前から退行変性性のヘルニァが存し、右事故により悪化したが、いずれも検査で見逃すほどに軽度なものであったというような場合が挙げられるところ、いずれの場合であるかは確定しがたいものの、前記1認定の本件事故後の発症の事実、その症状の継続等をもあわせ鑑みると、右<3>又は<4>の場合を想定するのが事案に相応するものといえよう。

したがって、原告が本件事故により受けた傷害として頸椎捻挫以外に外傷性頸椎椎間板ヘルニアを挙げるとしても、その趣旨は前記<3>の場合ばかりではなく、<4>の場合をも包摂する趣旨において理解すべきものである。

3  欠勤及び休職等

原告は、本件事故による入通院のため平成三年一一月七日から平成五年九月二九日まで欠勤や休職等を余儀なくされた旨主張し、被告は入通院が不必要な濃厚治療で、欠勤等の必要もなかったとして、これを争う。

前記1認定の症状、所見の経過、特に再度のMRI検査以外に客観的な他覚所見はなく、それも最初には見過ごされるほど軽度なものであり、主訴も多彩で、各種検査結果も診察の度に微妙に変化するなど、症状発現に心因的要因がうかがわれ、原告本人の希望で入院したものの、まもなく医師からの通院の方が好ましいとの勧告により退院して通院治療に切り替え、右退院後の治療内容は症状固定の診断が為されるまでほぼ同様の理学療法や投薬等が繰り返され、症状固定後の後遺障害等級の事前認定も一四級一〇号程度にとどまっていることなどからすると、原告特有の心理的体質的特質から、通常の症例に比較して些か回復に日時を要したものと推察はすべきではあろうが、その点を加味しても、退院後一年程度で右後遺症状は固定していたものと認めるのが相当であり、原告が勤務を休業してもやむを得なかったのも右時期までとするのが妥当である。

したがって、原告の後遺症状固定時期は平成五年一月末日頃、休業相当期間は本件事故の日である平成三年一一月七日から症状固定時期である平成五年一月末日までとして、損害額算定に臨むべきである。

四  損害額

1  治療費等 二九九万五四八〇円

甲第一四、第二四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、前記三3説示の平成五年一月末日までに、児島中央病院、藤本治療所及び岡山柔道整体治療院における治療費として二九九万〇八八〇円、診断書料として四六〇〇円、合計二九九万五四八〇円を要したことが認められる。

2  通院交通費 九七万五九三〇円

甲第一四、第二四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、通院にバス等の公共交通機関のみを利用するのでは不便であったことなどから、通院にタクシーを利用し、被告側もこれを了承していたこと、平成五年一月末までのタクシーによる通院交通費として九七万五九三〇円を要したことが認められる。

3  入院雑費 七万円

原告が平成三年一二月四日から平成四年一月二二日までの五〇日間児島中央病院に入院したことは前記三1認定のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一四〇〇円程度と認めるのが相当であるから、右入院雑費の合計は七万円と認めるのが相当である。

4  文書代 二万〇九一〇円

甲第一四、第二四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による損害賠償の必要上、文書代二万〇九一〇円を要したことが認められる。

5  装具代(首のコルセット) 九一六二円

甲第一四、第二四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、装具代(首のコルセット)として九一六二円を要したことが認められる。

6  休業損害 八七万八六六二円

甲第一ないし第五号証、第二四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故の日である平成三年一一月七日から平成四年六月二一日までの欠勤については、勤務先の株式会社岡山高島屋において当時保有していた有給休暇繰越日数合計一六二日をあて、その後は傷病欠勤、傷病による療養のための欠勤の扱いとなり、平成五年一月一六日以降は休職扱いとなったが、同社の給与規定に基づいて、毎月の給与は、平成四年六月までは全額の支給を受け(なお、毎月の給与の計算期間は前月一六日から当月一五日まで)、傷病欠勤扱い中の同年七月は二万〇〇九二円の減額、傷病による療養のための欠勤扱い中の同年八月から平成五年一月までは各月二万六七九〇円(合計一六万〇七四〇円)の減額、同年二月以降は休職により各月五万三五八〇円の減額(同年一月一六日から同月末日までの分に換算するとその半額の二万六七九〇円)となり、また、賞与は、通常の場合に比して、平成三年下期(同年九月から平成四年二月まで)が査定ダウンにより一万八五〇〇円の減額、平成四年上期(同年三月から九月まで)が欠勤減額及び査定ダウンにより一九万四〇四〇円の減額、同年下期(同年九月から平成五年二月まで)が同様四五万八五〇〇円の減額となったが、その余は支給を受けたこと、以上のとおり認められる。

右認定事実によれば、原告の平成三年一一月七日から平成五年一月末日までの休業損害は、平成四年七月給与減額分の二万〇〇九二円、同年八月から平成五年一月までの給与減額分の一六万〇七四〇円、同年二月分のうち同年一月一六日から末日までの休職減額分二万六七九〇円、平成三年下期の賞与減額分一万八五〇〇円、平成四年上期の賞与減額分一九万四〇四〇円及び同年下期の賞与減額分四五万八五〇〇円の合計八七万八六六二円と認めるのが相当である。

7  入通院慰謝料 一五〇万円

前記三1認定の傷病の部位、内容、同三3説示の症状固定時期までの入通院として相当な期間、前記6の有給休暇消化の状況等を総合考慮すると、その慰謝料としては一五〇万円と認めるのが相当である。

8  逸失利益

a  労働能力喪失分 六〇万〇二三〇円

甲第一三号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の平成三年度の給与所得は四三九万七二九一円であるところ、前記三1認定の原告の後遺障害の部位、内容、程度(特に等級一四級一〇号の局部の神経症状にとどまること)、勤務先の事情等を総合すると、原告が復職して従来通り所定の給与を得るについても、相応の努力を要するものと推定されるから、労働能力喪失割合を五パーセント、喪失期間を三年とする限度において逸失利益を認めるのが相当である。

したがって、労働能力喪失による逸失利益額は四三九万七二九一円に喪失割合として〇・〇五を乗じ、更に喪失期間三年に対応する新ホフマン係数二・七三を乗じて得た六〇万〇二三〇円となる。

b  年次有給休暇喪失分

原告は、請求原因4<8>bのとおり主張し、原告が休業期間中に保有していた有給休暇繰越日数一六二日を使用したことは前記6のとおりであるが、甲第一ないし第五号証、原告本人尋問並びに弁論の全趣旨によれば、原告の勤務先の岡山高島屋では有給休暇の買取制度は存在しないことが認められるから、年次有給休暇を失ったとしても金銭的損害として直接現実化することはないものというべきであり、これを逸失利益と認めることはできないものというべきである(もっとも、入通院慰謝料の算定の際の考慮の対象にはなり得るから、現に前記7においてこの点もあわせ考慮した)。同様の理は平成五年、六年分の喪失した年次有給休暇分についても当てはまる。

c  平成五年九月(復職月)分給与減額分 二万三三五五円

原告は、請求原因4<8>cのとおり主張するところ、右は同年九月分の欠勤減額分に限定して請求する趣旨ではなく、復職月の欠勤減額分を請求する趣旨と善解できるので検討するに、前記三3説示のとおり欠勤相当期間は平成五年一月末日までであるから、同年二月一目に復職するとすれば、甲第五、第二四号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、同月分給与については、給与額の計算期間である前月一六日から当月一五日までのうち、前月一六日から末日までの欠勤減額計算がなされることが想定され、その額は右主張の二万三三五五円を下らないものと認められる(なお、右は後遺障害による逸失利益というよりは休業による損害の一局面と目すべきものである)。

d  リフレッシユ休暇消化による平成六年六月給与減額分

原告は、請求原因4<8>dのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋間中には、原告の勤務先の株式会社岡山高島屋では従業員は勤続五年ごとに二週間連休のリフレッシュ休暇をとることができ、原告は平成六年六月にこれを取得したが、本件事故による休業のため本来ならば与えられるべき同年分の年次有給休暇が与えられていなかったことが後に判明し、同月分の給与において欠勤五日とされて六八四五円の減額を受けたとの部分があるけれども、前記三1、3のとおり原告は休業相当期間を超えて現実には休業を継続しており(超えた期間は休職期間の大半を占める)、このことが平成六年分の年次有給休暇が与えられなかった原因であった(逆に言えば、右休業相当期間直後の平成五年二月段階で復職していれば、右年次有給休暇が与えられた)可能性があり、この点の証拠関係が明確ではないほか、右は原告の休暇取得手続上のミスのおもむきが濃く、いずれにしても本件事故と相当な因果関係にある事態とは認めがたい。

e  職務能力給の喪失分

原告は、請求原因4<8>eのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中には、原告は平成五年九月二九日までの欠勤及び休職等の後に同月三〇日復職したものの、右主張のごとき職務能力給の増額を受けられない立場となったとの部分があるけれども、右職務能力給喪失が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

f  職務資格給の喪失分

原告は、請求原因4<8>fのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、前項同様、右職務資格給の喪失が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

g  年令給の喪失分

原告は、請求原因4<8>gのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、前項同様、右年令給の喪失が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

h  年末手当(平成五年度)の減額分

原告は、請求原因4<8>hのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、前項同様、右年末手当(平成五年度)の減額が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

i  賞与の減額分

原告は、請求原因4<8>iのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中にはこれに治う部分があるが、前項同様、右賞与の減額が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

j  厚生年金支給額の喪失分

原告は、請求原因4<8>jのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、前項同様、右厚生年金支給額の喪失が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

k  退職金の差額分

原告は、請求原因4<8>kのとおり主張し、甲第二四号証、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、前項同様、右退職金の減額が、前記三3説示の休業相当期間直後の復職の場合にもあり得たことを認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用しがたい。

9  後遺症慰謝料 五〇万円

前記三1認定の後遺障害の部位、内容、程度、その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、後遺症慰謝料としては五〇万円と認めるのが相当である。

10  合計 七五七万三七二九円

五  損害の填補 七九一万一四三九円

請求原因5は原告において自認している。

六  結論

以上によれば、本訴請求は、認定の損害額合計を支払済みの填補額が上回るから、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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